美容業界では、消費者のリアルな声である「体験談」が、商品の魅力を伝える上で非常に強力なツールとなります。
インフルエンサーによる紹介やアフィリエイト記事など、体験談を活用した広告表現は今や日常的に目にします。
しかし、前回の記事でも解説した通り、化粧品において「こんな効果があった!」「劇的に変わった!」といった効能効果や安全性を保証するような体験談の表現は、日本の法律で厳しく規制されており、違反行為となる可能性があります。
では、一体どのような表現であれば、法規制に抵触することなく、消費者に商品の良さを伝えることができるのでしょうか?
本記事では、化粧品の体験談で「何が書けて、何が書けないのか」を具体的に解説し、皆様の適切な広告作成をサポートします。
なぜ体験談での効能効果の保証がNGなのか?どのような内容がNGなのか?
ということについては、こちらの記事をご覧ください。
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規制に引っかからずに体験談で書ける内容
効能効果や安全性を保証する体験談は認められませんが、化粧品の特性や法令の趣旨を踏まえると、表現の工夫によって消費者に役立つ情報を伝えることが可能です。
体験談として表現できるのは、主に「効能効果や安全性以外の、客観的事実に基づいた使用者の感想」の範囲です。
具体的な表現のポイントは以下の通りです。
1. 使用方法、使用感、香りのイメージに関する感想
化粧品の使用感や香り、使い勝手など、主観的ではあるものの、効能効果や安全性とは直接関係しない事柄については、事実に基づいた使用者の感想を表現することが認められています。
【認められる表現例】
- 「洗顔後すぐに使えるので、忙しい私にピッタリでした。」
- 「しっとりした使い心地が肌に馴染んで、とても気持ちが良いです。」
- 「女性らしいライトフローラルの香りが気に入りました。」
- 「さっぱりとした感触が私にピッタリです。」
- 「この化粧水は伸びが良く、少量で顔全体に広がります。」
- 「ポンプ式なので、衛生的に使えて便利です。」
これらの表現は、消費者が商品を選ぶ際の参考になりますが、あくまで個人の感想であり、その商品を使うことで肌質が改善されるなどの効能効果を暗示しないように注意が必要です。
2. メーキャップ効果などの「物理的効果」に関する事実
化粧品は、メーキャップ効果や物理的な作用による外観の変化を表現することができます。ただし、それが客観的な事実に基づき、かつ「メーキャップ効果等によるもの」と明確に示されている場合に限られます。
効能効果や安全性の保証表現にならないように細心の注意が必要です。
【認められる表現例】
- 「このブロンザーを使うと、小顔に見えるメーキャップ効果があります。」
- 「このリップグロスは、唇にツヤを与えて立体感を出すメーキャップ効果があります。」
- 「このカラーシャンプーは、髪を物理的に染毛することで、髪色を黒くします。」
- 「(まぶたを糊のようなもので貼り合わせ)一時的に二重まぶたを形成できます。」
ただし、基本的に物理的効果は化粧品を使っている間の一時的効果なので、効果が得られる時間を保障するような表現は使わないように注意してください。
上記の例のような表現であっても、効果時間の保証が加わるとNGになります。
【NG例】
- 「このブロンザーを使うと、小顔に見えるメーキャップ効果が一日中持続します。」
- 「このリップグロスは、唇にツヤを与えて立体感を出すメーキャップ効果が8時間続きます。」
- 「このカラーシャンプーは、髪色を黒くします。」(広告全体の印象として、効果が永続的なものであると誤認される場合)
- 「(まぶたを糊のようなもので貼り合わせ)一日中ずっと二重まぶたが取れなかった。」
使用前・後の写真やイメージ図の扱い
メーキャップ効果などの物理的な効果を表現する場合に限り、使用前後の写真や図面を使用することが可能です。
例えば、口紅の色やファンデーション、アイシャドウによるメーキャップの効果を「化粧例」や「仕上がり感」として示すことは問題ありません。
しかし、以下のような表現は認められません。
具体的なNG例 | NG理由 |
|---|---|
| ・「メラニンの生成を抑え、シミ、ソバカスを防ぐ」 | 「防ぐ」といった予防的効能は写真で表現不可能です。 |
| ・「歯が真っ白に!」 | 歯のホワイトニングは、歯みがきによる物理的効果を超えた「漂白作用」や「半永久的な白さ」を暗示する表現、または歯科医院でのホワイトニングと同等の効果があると誤認させる表現は認められません。 |
3. アンケートやモニター調査結果を適切に表示する方法
アンケートやモニター調査の結果を広告に用いること自体は、直ちに虚偽誇大表示に当たるものではありません。
しかし、不適切に使用すると消費者に誤認を与えるおそれがあるため、以下の点に留意する必要があります。
- 「個人の感想です」等の免責表示の限界
- 「個人の感想です」「効果を保証するものではありません」といった免責表示を付記したとしても、表示内容全体から「当該商品に特定の効能効果がある」と一般消費者に認識されるにもかかわらず、実際にはそのような効果がない場合、その表示は虚偽誇大表示に該当するとされます。
免責表示は、認められない表現を救済するものではないことに留意が必要です。
- 「個人の感想です」「効果を保証するものではありません」といった免責表示を付記したとしても、表示内容全体から「当該商品に特定の効能効果がある」と一般消費者に認識されるにもかかわらず、実際にはそのような効果がない場合、その表示は虚偽誇大表示に該当するとされます。
- 不適切な使用方法の禁止
- 実際には効果を実感できなかった体験談が多数存在するにもかかわらず、都合の良い一部の体験談やコメントのみを引用し、誰でも容易に同様の効果が期待できるかのように表示することは禁止されています。
- 関係者に依頼した体験談を、あたかも一般の利用者の自発的な体験談であるかのように表示することも認められません。
- 「満足度93%!!」のように、調査結果に基づき数値で示すことは、効能効果や安全性が確実であるかのような誤解を与えるおそれがあるため、原則として行ってはなりません。ただし、「使いやすさの満足度93%!!」のように、効能効果や安全性以外の点に関する満足度であれば、客観的な調査に基づき、調査の概要を明示して表示することが可能です。
体験談広告におけるその他の注意点
体験談広告を制作する上で、上記以外にも注意すべき点がいくつかあります。
1. 広告全体での判断
広告の規制は、特定の用語や文言だけで判断されるものではありません。消費者が広告内容全体から受ける印象や認識によって、虚偽誇大表示に該当するかどうかが判断されます。写真、イラスト、コントラスト、周辺に記載されているその他の表現なども含め、広告全体で判断されることを常に意識してください。
2. 「実感」の表現
「実感」という言葉は、しばしば効能効果の保証と誤解されがちです。化粧品における効能効果の保証的な「実感」表現、および安全性に関する「実感」表現は認められません。キャッチフレーズなどの強調表現も避けましょう。
3. 「No.1」表示
「効き目No.1」「安全性No.1」といった、効能効果や安全性に関する最大級の「No.1」表現は認められません。しかし、例えば「売上No.1」のように、効能効果や安全性に誤認を与えない表示で、かつ客観的な調査(調査会社名、調査期間など)に基づき、その出典を明確に示せる場合は認められます。
4. 専門家や公的機関の推薦
医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校、学会を含む団体が、製品を指定、公認、推薦、指導、または選用している旨の広告を行うことは禁止されています。
- 「皮膚科専門医も奨める」
- 「○○美容研究所推薦」
- 「○○大学との共同研究」
上記のような表現も、化粧品の場合、医薬関係者等の推薦に該当し、または効能効果の逸脱を招く可能性があるため認められません。
まとめ
化粧品の広告において、消費者のリアルな声である「体験談」を活用したい気持ちはよく理解できます。しかし、薬機法や景品表示法、健康増進法、そしてそれらを補完する各種ガイドラインにより、その表現は厳しく制限されています。
効能効果や安全性を保証するような体験談は避けるべきですが、商品の「使用感」「香り」「使いやすさ」といった、効能効果や安全性に直接関わらない部分の事実に基づく感想は、適切な表現を用いることで伝えることが可能です。また、アンケート結果を引用する際は、都合の良い部分のみを強調せず、全体像を正確に伝える努力が求められます。
最も重要なのは、「消費者に誤解を与えない」という原則です。
特定の言葉だけでなく、写真やレイアウト、全体的なトーンを含め、広告全体が消費者にどのような印象を与えるかを常に意識することが、法令遵守の広告作成において不可欠です。



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